両眼視 眼筋の協同作業 むき運動

コンピューターの技術も、屈折異常の検査やメガネの加工に幅広く使われています。そういう意味でメガネの度数も比較的正確に測定も可能になってきました。ただメガネの目的は視力が改善されることだけではありません。眼鏡を装用して快適な視生活を確保するためには、視力とともに両眼を一つのチームとして機能的に、快適に使えていることも確認する必要があります。


それぞれの目には6本の外眼筋が付いており、左右合わせて12本が、協同して両眼で見たいものが一つにはっきりと、立体的に見える様に常に協力しています。この機能を両眼視機能やEye teamと呼ばれています。


冬季オリンピックで活躍した女子パシュートチームの活躍は鮮明でした。大柄な外国人チームより、明らかに統制が取れて、精度の高い滑りでした。実は眼の予備検査にもこのパシュート(むき運動)検査があり、眼球の動きが統制が取れているかを、左右上下に指標を追いかけていただいて、その両眼球の動きを観察しています。ものがダブって見えることがある方には、カバーテストと並んで大事な検査になります。一般の方には当たり前すぎて、何のための検査か分かりにくいことでしょう。でも左右6頭立ての馬車を馭していると考えると、すごく大事な機能ですね。


外眼筋はテコの原理で眼球を動かしていますが、両眼視を最高のレベルで確保するための仕組みが進化の過程で出来上がっています。まず眼球の収まっている頭蓋骨の窪み(眼窩)は円錐形をしていますが、正面を向いている眼球に対して少し鼻側に軸があるので、眼球の上に付いている上直筋を引っ張っても真上だけでなく、内側にも回旋します。下直筋も下に向けるだけでなく、外側に回旋します。23度眼球が外に向いた時に上下直筋とも主に上下だけの動きになります。


下斜筋は眼窩の下前方から眼球を包み込む様にして、眼球の上外側についています。これが引っ張られると眼球は上外向きに回転し、やや外側に向けます。39度外向きに視軸を持っていくと、外側回旋だけになり、51度内側に持っていくと、上向きだけの動きになります。


上斜筋の軸も同様ですが、他の眼筋の様に眼窩の奥の総腱輪から起こり、眼窩の前縁の上内方から突き出た軟骨の滑車と呼ばれる部位で向きを変えて、眼球の上部に付いている。下斜筋と反対に51度内転した時には、下方だけの動きになり、31度外転した時には、内側に回旋します。滑車で筋肉の向きを変え、眼球を前方から引っ張る。哺乳類のどの辺りからここまで進化したのか非常に興味深いところです。


眼球の内側と外側に付いている内直筋、外直筋はそれぞれ内側と外側に引っ張ります。内側に寄せる内直筋は眼筋の中でも最も太く、読書などで眼を輻輳させる役割を、外側に向ける外直筋とバランスをとって働いている。近方視で眼をうまく輻輳できない輻輳不全も、この太い筋肉を鍛えることで、かなり効果的に改善できる。


それぞれの直筋の内、上直筋、下直筋、内眼筋、下斜筋は動眼神経が支配し、上斜筋は滑車神経、外眼筋は外転神経がそれぞれ支配する。それぞれの眼球は上下左右にものを追いかける事ができ、さらに両眼でも同様にできることになる。左右の目で中心窩に映るものを、視中枢で同時に同じものを見ている(同時視)と感じ、左右の目で一つに見えている(同一視)、さらに奥行きを把握している(立体視)が可能になっている。網膜黄斑部中心窩で常にものが捕らえられる良好な視力と、左右の中心窩からのズレを補正して常に融像できること、更にその精度を上げることで立体視という最適で、快適な視能力を有することができる。


12本の眼筋は協同して活動しているが、外傷や循環器系の異常などからの支配神経の不具合によって、ものが二つに見える複視を生じることがあります。視機能の成長に伴って確立された両眼視が、突如不全に陥ることは、大変不安を感じます。先ずは専門家による診断と治療が必要ですが、その不快な症状を収めるためには、フレネルプリズムという板状のフィルムをメガネレンズに貼ることで、両眼視を確保することもあります。


また微小の上下斜視でも「むき運動」とカバーテストの検査で、どの斜筋の異常かを推定でき、起こりうる支配神経の周りの循環器系の精密検査を早急に受けることが必要な事もあります。むき運動と眼位、頭部の傾きを組み合わせることで、問題の斜筋を特定できる検査法があります(Parks three-step test)。一本の眼筋に異常が起こると、その筋肉への神経刺激を強くし、同様の働きをする眼筋への刺激が増える(Hering’s Law of Eqaul Innervation)一方、反対の動きをする眼筋への刺激を抑えようとする(Sherrington’s Law of Reciprocal Innervation)ため、時間の経過と共に元凶の眼筋が正確に判断できなくなる場合もあります。正面を見ている第一眼位とそれ以外を見ている眼位で上下の複視幅が変わる場合は、斜筋の異常が先ず疑われるので、眼科と脳神経外科などの専門医での診察が早く望まれる。


複視を伴わない両眼視ができている状況でも、両方の眼を協同させるために苦労している斜位や調節の問題がある場合が考えられる。目がよく疲れる、字がぼやけることがある、時々ものが二つに見える、読書をしてもすぐ眠くなるなどの症状は、両眼視の問題を抱えているサインなので、メガネの作製においては見逃してはならない。この項については両眼視機能 融像と輻輳 で述べる。